うーむ。誰かが書いていた懸念が現実のものに。
追記。「誰かが書いていた」のソースはこちらです→「白田秀彰 の 「インターネットの法と慣習」 第2回 匿名発言について」
追記その2。
まとめよう。Winny Ver. 2のようなP2P型匿名発言ソフトウェアが創り出す言論空間は、アーキテクチャ的に匿名発言がデフォルトとなるような世界である。それは、ネットワークの伝統的価値観に合致するし、現実世界での状況を反映したものにすぎない。一方、事実として保障された匿名性のゆえに、低廉な費用で大量のメッセージを送出できるというネットワークの利点が濫用される危険が大きい。仮にそうなれば、Winny Ver. 2どころか匿名発言それ自体に対する批判が勢力を増すことになるだろう。そこにおいて、「発言者のプライバシー保護」という個人的価値は、匿名発言の濫用から生じる社会的害悪との比較衡量の上で説得力を失う可能性が高い。そうなれば、Winny Ver. 2 が潜在的に持っていた、「民主主義的価値に貢献する」という匿名発言の社会的価値まで失わせてしまうことになる。
今回の件は、(京都府警の強引さがちょっと目立ちますが) まさに上記引用文の流れに沿ったものだと僕は感じました。
上記文書にもあるように、ネットワークには本質として匿名性はない以上、その匿名性は制度として (今の現実としては特定の私人、私企業に依存して) しか存在し得ません。かつて2ちゃんねるが本当に匿名掲示版だった時、ひろゆきは散々裁判で負け、結果自らを守るために匿名性を制限せざるを得ませんでした。日本では、権利を侵害された人を保護するために「匿名性を維持している」存在に責任を認める、という判例が既にあるわけです。
47氏が、ひろゆきと同じように匿名性を制限する、または権利侵害に対する有効な対策を行っていれば、「Winny は単なる道具。中立なもの」という主張にも説得力があったでしょうが、各所で報道されている通り、権利侵害を知りつつそれに対する対策を全く行っていなかったとすれば、「幇助」と取られても不思議ではないんじゃないかと僕は思います。「幇助」は強引過ぎるにせよ、いつかはかつての2ちゃんねると同様に権利侵害を受けた企業などから訴訟を起こされ、公の場にひきずり出された上で負けたでしょう。
ちょっと矛盾を感じるのは、「匿名制度の維持者」が責任を問われるのはその実際の権利侵害者が特定できないからだとすれば、「Winny の仕組みは解明した」と言い切っていた京都府警自身が、「匿名制度の維持者」の逮捕に踏み切った点です。「Winny 利用者の逮捕」「47 氏の逮捕」の順序に、ライト・犯罪者の意気をくじく演出があった、と見るのはうがちすぎでしょうか。
なお、上の話を読めば明らかだと思いますが、僕は今回の一件に関して、「制度としての匿名性を維持しようとしていたかどうか」がかなり重要な意味を持っていると考えているので、この件をそのまま「Web サーバの作者は逮捕かよ」「anonymous ftp ソフト製作者は逮捕かよ」「IP ネットワーク作った奴は逮捕かよ」と拡大していくのはナンセンスだと思います。それらのソフトウェアは本質的に匿名性を持ちませんから、違法な使い方をした利用者を特定して裁けば良いだけです。
追記 (5/15)
47 氏をサービス提供者/管理者として見る見方は強引過ぎる、という意見を見掛けました。言われて見れば確かにその通り。というのも、Winny の匿名性もせいぜい「誰が放流したのかが分からない」程度のものであるらしく、報道されているように個々のノード (これは匿名ではありません) が共有しているファイル一覧が得られるのであれば、匿名アップローダと同じように各ノードの管理責任において違法ファイル公開を咎めることも現実的に可能なように思えるので。そういう状況だとすれば、47 氏を逮捕する、という京都府警の今回の行動は警察の取るべき行動としては的が外れていますね。47 氏を逮捕したところで Winny ネットワークは止まりませんから。アメリカでの例などと同じように、個々のノードを管理している人達の責任をきちんと問うていかなくては事態は改善されないでしょう。